スマートフォンに必ず搭載される部品であるバッテリー。
そんなスマホのバッテリーでは主に「リチウムイオンバッテリー」が使われていましたが、近年その容量を飛躍的に伸ばす「シリコンバッテリー」に注目が集まっています。
この記事ではそんなシリコンバッテリーの性質と、スマホ業界に与える進展についてわかりやすく解説します。
バッテリー(電池)とは?
バッテリー(電池)とは、電力を蓄えて必要なときにその電力を使うことができる装置です。
電池には充電ができない使い切りタイプの一次電池のほか、充電をして繰り返し使用できる二次電池と呼ばれるものがあり、スマートフォンに搭載されるリチウムイオンバッテリーは二次電池にあたります。
スマートフォンを長く使えるよう各メーカーが可能な限り大きなバッテリーの搭載に試行錯誤を繰り返し、スマホ全体の約30%ほどがバッテリーとなるほど重要な役割を担っています。
リチウムバッテリーの課題
スマートフォンに搭載されている搭載されているバッテリーはリチウムイオンバッテリーといい、電池の中で負極から正極にリチウムイオンが移動することで電流を生み出します。
正極側の材料はさまざまですが、負極側は層状構造を持ちLi(リチウム)イオンを効率よく蓄えることができる「グラファイト(黒鉛)」がよく使用されます。
しかし、このグラファイト素材は1gあたりに蓄えることができるリチウム原子の数が決まっているため、充電容量の底上げをするためにはバッテリー自体を大きくすることを余儀なくされ、構造的に頭打ちになるという課題が生じていました。
実際に、バッテリー容量が重要になるゲーミングスマホ「ROG Phone 7 Ultimate」は 6,000mAhのバッテリーを搭載するために本体重量が脅威の246gという日常使いで支障が出る弊害を持っていました。
新たな時代のバッテリー
そんなリチウムイオン電池はすでにエネルギー密度の点で性能の限界に達しつつあり、次々と開発が進む最先端の電気自動車やハイブリッド自動車市場における高いエネルギー需要を満たすことができなくなっていました。
つまり、リチウムイオンバッテリーに使用されているグラファイト(黒鉛)負極には次世代の代替え品が必要となったのです。
新世代のシリコン素材とは
従来まで負極側素材として使用されていたグラファイト(黒鉛)に代わって注目を浴びてきたものはシリコン素材でした。
グラファイト(C)は1つのリチウム原子を保存するのに6つの炭素が必要で、1gあたりのエネルギー容量理論値は372mAhとなります。
一方でシリコン(Si)は一つのシリコン原子で4つのリチウムイオンを保存可能となり、エネルギー容量理論値は4,200mAh/g、グラファイト(C)の約11倍となることから次世代バッテリーを構成する素材になりうると期待が高まりました。
小さい体積で多くのエネルギーを貯蔵できるその性質は、小型化が求められるスマートフォンにおいて最適解ともいえる新素材だったのです。
シリコン素材の実用化と問題
では、11倍のエネルギー容量を持つのであればスマホのバッテリーの容量が50,000mAhになるのかといえばそうでありません。
純粋なシリコンは充放電時に体積が300%も変化する性質を持っているため、そのままバッテリーとして運用すると破裂してしまい、完全なシリコン結晶を使用することはできません。
そういった問題を防ぐために、多くの技術者が試行錯誤を重ねていくつかの手法も開発されました。
そして、現在では炭素素材とシリコンを組み合わせたシリコン系炭素複合材料の運用なども始まり、市販のシリコンカーボンバッテリーの容量が約550mAh/gと従来のグラファイト素材を使用していたものと比較して約1.5倍の容量を可能にするまでに至っています。
搭載されたスマートフォン
こうして開発が進むシリコンカーボンバッテリーはすでに一部の業界で実用化が進み、テスラの自動車バッテリーにも使用されていたり、スマートフォン業界ではHonorのHonor Magic 5 Proや近日発売のMagic 6 Proにも採用されています。
現時点ではカーボン素材に酸化シリコン粉末を振りかけることでシリコンの膨張デメリットを起こさないようにしていますが、今後完全なシリコン素材を不具合なく運用できることになれば多くの業界で飛躍的な技術革新が起こることでしょう。